むかしむかしあるところに、お腹をすかせた少女がいました。
彼女は深い森の中、ひっそりと暮らしていました。
人々が彼女の一族の生まれや外見を怖がり、避けていたからです。
森の入り口近く、家に帰る事も出来ず、少女は倒れそうになりました。
空腹に耐えかねた彼女は、通りがかった人を怖がらせて、
持っているお菓子を奪ってやろうと考えました。
そこへ、旅人風の格好をした少年が現れました。
これがチャンスだ――少女は彼に向かって言いました。
「お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ!」
少年は言いました。
「お腹が空いているの? 僕のお菓子を分けてあげるよ」
少女は驚きました。彼の言葉があまりにも予想外だったからです。
今まで、こんな言葉をかけてくる人はいなかったのです。
彼女の口から、思わず疑問がこぼれました。
「お前は、私が怖くないのか?」
「怖い? どうして?」
少年は笑って言いました。
その無邪気な笑顔、無邪気な発言に、少女はただただ呆然とするばかりでした。
「それじゃ、僕はもう行かなきゃ。僕を待っている人たちがいるんだ」
待っている人。その言葉で少女もまた、彼女の家族の事を思い出していました。
そして少年は踵を返し、再び歩き始めました。
「……あ、あの!」
少女が呼び止めると、少年は足を止めて振り返りました。
「その……ありがとう」
それを聞いた彼はにっこり笑って、彼女に手を振りました。
彼女もまた、去っていく彼に向けて手を振りました。
それは、「魔女」と呼ばれた少女が、人の温かさを知った瞬間だったのかもしれません。
*************************