彼は持っている箱を落とさないように気を配りつつ家路を急いだ。今のこの時期も相まって、外はもう真っ暗になってしまっている。
ミトとルトは今何をしているだろうか。自分がいない間、二人もこの日を楽しんでいたのだろうか。ふとそんな事を気にしつつ、彼は夢中で走っていった。気のせいか、その道のりは往路よりもはるかに短く感じられた。
夜の村を駆け、家の前まで到着した。彼はドアを開けて中へと入った。
「……ただいま!」
彼の耳にパタパタと足音が聞こえてくる。ほどなく現れたのはミトとルトの姿だった。
「おかえり! お疲れ様だったわね!」
「どうだ、楽しんできたか?」
彼らの言葉を耳にして、ポトは表情を明るくして二人の側へ駆け寄った。
「ミト! ルト! 待っててくれたんだね!」
彼は手に持っていたケーキをミトに手渡し、二人に尋ねる。
「二人とも、僕がいない間は何してたの?」
「うーん……まあ、何かする事無いかなーとか思ってたんだけど……」
「お前がいないとイマイチ盛り上がりに欠けてな」
ミトとルトは首を傾げて答える。彼らは互いに顔を見合わせ、言葉を続けた。
「だから、あんたが来てから改めて遊び明かそうかと思ってね」
「適当に暇潰しして待ってた訳だ」
二人が自分を待っていた。それを知ったポトは嬉しいやら申し訳ないやらの思いで胸が一杯だった。
「ミト、ルト……ありがとう」
「……ただ、俺たちが勝手に待ってただけだ。礼を言われるような事はしてないさ」
少々照れ気味な様子で答えるルトの姿に、ポトとミトがふっと微笑みをこぼす。
「とにかく、向こうに戻りましょ。いつまでも玄関で話すのも野暮だしね」
彼女がそう促し、三人は足並みを揃えて居間へと戻っていった。
「ところでさ、暇潰しって何してたの?」
ポトがふと二人に尋ねた。彼らは一つ一つを思い出すように話し始める。
「んーと……ポップン関連の単語でしりとりしたり」
「あと、家庭版ポップンのバトルモードで勝負したりな」
ポトは興味深そうに彼らの話を聞いている。二人は更に話を続けた。
「ルトってば、何やっても強いんだもん……全然勝てなかったのよね」
「バトルモードで総合成績二十五点差だったあの試合はかなりハラハラしたけどな」
嬉々とした様子で語る二人に、ポトは目を輝かせていた。
「楽しそうだね! 今度僕も一緒にやりたいなぁ」
そんな彼の様子を見て、ミトとルトは視線を合わせて笑った。
「じゃあ今度は三人でやりましょ? 次は何か罰ゲームでもあればもっと楽しいかもね」
そう言いながら、ミトは持っていたケーキをそっとテーブルの上に置いた。
「……あ、そうだ! どうせならミカエラちゃんたちも呼んでみない?」
「それも良いかもな。兄貴たちならきっとまだ起きてるだろうし」
ふと思いついたようにミトが言い、ルトが彼女のその案に賛成した。
二人がそんな話をしていると、ポトは彼らの話に割って入る。
「待って待って、それはやめといた方が良いって」
「えっ?」
二人は訝しげにポトを見た。彼は二人を見てさもありなんと語り出す。
「だって今日はクリスマスだよ? あの二人だってきっと予定とかあるでしょ」
それを聞いた二人は「確かにそうかもしれない」と考え込むような仕草を見せる。
「でしょ? にいちゃんたちにとって今日は絶好のチャンスな訳だし……」
ポトが延々と話す中、ミトとルトは彼の方を見て思わず声をあげそうになった。いや、正確には「彼」ではなく「彼の背後の人物」を見て、という事だ。
当のポト本人は、そんな二人の様子にも現在の状況にも全く気付かずに話し続ける。
「……まあ、だからきっと今頃は二人でよろしくやっちゃって――」
「ほらそこ、いつまでも調子に乗らない」
突如、誰かがポトの言葉を遮り、背後から彼の頭を剣の柄で小突いた。ポトは小突かれた部分を手で押さえながらその人物のいる方へと振り向いた。
「……兄貴達、どうしてここに?」
「あー、びっくりした……どうしたの、いきなり?」
ルトとミトがポトの側まで駆け寄り、その人物に声を掛けた。
「楽しそうだね、三人とも」
「みんな、元気? 私たちも来ちゃった」
そこにいたのは紛れもなくフェルナンドとミカエラの二人だった。
「私たち、最初からクリスマスはみんなといようって決めてたんだ」
ミカエラがそう言うと、フェルナンドも共にそれまでの状況の説明を始めた。
「だけど、今日はリデルさんの方からポトに招待があったって聞いてさ」
「そうそう! だから私たち、ポトが帰ってくるのを家で待ってたの」
「さっきポトが帰ってくるのが見えたからこうして外に出てきたってわけ」
すらすらとテンポ良く語る二人に、ルトとミトはようやく口を挟む事が出来た。
「……で、その時に扉の向こうから俺たちの話が聞こえた……と」
「それで、なるべく静かにポトの後ろまで来たって事ね」
「ご名答」
フェルナンドとミカエラは声を揃えて、笑ってそう答える。そんな会話を交わす彼らのすぐ側で、ポトは何も言わずにジト目でフェルナンドを睨みつけていた。
「とにかく、これでみんな揃ったわね! それじゃあガンガン料理持ってきて!」
「えぇーっ!? ぼ、僕もう今日は何も食べられないよ! た、食べるのだけは明日に……」
「さあ、今日は体力が続く限り盛り上がるわよ!」
うろたえるポトの言葉をまるっと無視し、ミトが声高に言う。元気に満ちた表情のミトと疲れ顔のポト。その対照的な姿に、他の三人は思わず噴き出した。
「……まあ、折角の機会だ。お前も参加しない訳が無いよな?」
「たまにはこんな日があっても良いんじゃないかな?」
「ゆっくり休むのは一日後にしておくとか……ダメかな?」
ルトとフェルナンドとミカエラが笑いながら口々にポトを説得する。これ以上何を言っても無駄だろうと思ったのか、彼は思いの外あっさりと折れた。
「わかった、僕も参加するってば! あぁもう、どうにでもなれだ!」
彼は半ば開き直り気味にそう叫ぶ。それを聞いた四人は一斉に「そうこなくちゃ」と笑った。
*****
「これ美味しいね! 誰が作ったの?」
「やっぱりそう思う? ミカエラが朝早くから作ってたんだ」
「……っつーか、おい……それ、もはや無くなったのか?」
「ふふ……ポト、何だかんだ言ってても結構元気ね」
「もう、余裕で食べれるんじゃない。全く、さっきのセリフは何だったのよ!」
彼らはテーブルと料理を囲んで賑やかに話していた。その場にいるのは五人だけだというのに、まるで宴会のような盛り上がりっぷりだ。
「わぁ、これも美味しい! こっちは誰が?」
「あ、美味しい? 良かった、実はそれ私が…………って、人の話聞いてんの!?」
怒鳴り声に笑い声。次から次へと、会話は絶え間なく展開されていく。
「……ま、いっか。それじゃ、次はケーキね!」
「よし、こうなったら今からみんなで全部食べちゃおっか!」
日付が変わり、夜が深くなるまで、彼らの喚声は止む事は無かった。
夜が明けて朝が訪れた時、居間にはぐっすりと眠る五人の姿があった。